1999年4月号  目 次:1999年1月〜12月)

事務局からのお知らせ

 320日(土)での会員総会において、1998年度の決算、1999年度の事業計画および予算が承認されました。承認された1998年度決算書、1999年度事業計画および予算を添付します。

国際会議の開催の予定地について

SD Policy Council "Conference Information"の、本年月にBob Ebelein副会長が次のように報告しています。(尚、日本支部ホームページからリンクしていますので、是非ご覧下さい。)

1999 ニュージーランドウェリントンにおいて72023日に開催されます。
2000 ノルウェーベルゲンにおいて開催されます。
2001 Nathan Forresterより、米国ジョージア州アトランタのおいての開催の要望があります。
200220042006年順番からはヨーロッパの開催です。現在、中国のQifan Wanより2002年に上海においての開催の要望があります。
200320052007年米国での開催を予定。高校教師のDiana Fisherより、米国オレゴン州ポートランドにおいての開催に関心が寄せられています。


定例研究会報告

76回定例研究会の報告は、以下の通りでした。
報告テーマ:「ファシリティマネジメントへのSDの応用」
報 告 者:日高昇治(NTTデータ通信株式会社)
日   時:1999年3月20日(土) 13:30〜16:00
出席者数: 10


1. SDとの係わり合い

 7年前にLondon School of Managementに留学し、Morecraft先生の授業を取ったことからSDを学んだ。企業の中でどうSDを使っていくかに興味を持っている。
 
2. SDの応用分野

London School of ManagementErick Larsen先生がSDfutureがあるのかどうか、もしあるとすればどのような分野で活用されるだろうかを考えていた。それによれば、化学、流通、通信、製造、プロジェクト管理、金融等における政策支援、特に戦略策定や、医学・生理学における肝臓モデル、インシュリンやグルコース、神経系モデル、生物学におけるエイズの新薬開発や細胞分裂、血液循環モデルといったような分野への応用が考えられるということだった。また、米国や北欧における中学・高校教育の中での科学(物理、生物)、文学(ロメオとジュリエット、ハムレット)歴史(革命のモデル化)といったもの、大学や生涯教育での経済、経営(戦略、人材管理、業務管理)、都市開発、地域経済や企業経済学といった教育分野でも有効ということだった。さらに、経済学にフィードバックやダイナミックス(動学)、非線型といった新しい概念を持ち込み、マクロ経済学での、国家モデル、開発経済、コモディティ市場といった分野や、ミクロ経済学での行動モデル、社会学における麻薬問題、環境保護(エネルギー、太陽発電、環境、二酸化炭素)、人口移動、世界モデルといった分野での活用に可能性があるということだった。このうち、中学・高校でのSD教育では学習院大学の森田先生と共同で現在実施している。

私自身は、実際の企業で考えてみて、戦略、TQM(品質管理)、ファシリティ・マネジメント、マーケティング、BPR(業務改革)、人材管理、財務といった分野に応用できる可能性があると思い、戦略や品質管理、マーケティング、ファシティマネジメント、BPRの分野で応用してみた。まだ人材管理と財務の分野には応用していないが、今後試みてみたい。

London School of Managementから戻って最初にやったのが戦略への応用で、勤務先での中長期経営計画で唱っていた売上倍増計画は、そのやり方ではうまく達成できないことをSDモデルで証明し、別のやり方を提案した。これにより売上を2倍することまでは達成できなかったが、何とか2倍近くまで達成させることに成功した。

次にBPRへの応用を考えてみた。考え方はすでにSD学会の月例会でも紹介したが、ビールゲームを取り上げ、これを題材に、ECR (Efficient Client Response)QR(Quick Response) のような適切な情報化が、ブルーウィップ変動を押さえ、振れ幅を小さくすることを示した。実際の現場での応用では、改善前と改善後の効果をシュミュレーションした。このことについては、黒野先生とゲーミング・アンド・シミュレーション学会でも発表した。

 マーケティングへの応用では、NTTデータの市場創造部の将来の市場イメージ創造に使った。市場予想として、ドコモと共同で携帯電話市場の予測を行った。また、マーケティング・ミックスということで、コトラーの4Pの最適組み合わせを求めたり、当時の価格戦争での価格戦略で値下げゲームのシミュレーションを行った。

 マーケティング分野への応用では、London School of Managementでの修論研究で、アプル社のパソコンビジネス戦略を取り上げ、マックはなぜ売れないのかを研究した。コカコーラ社からアップル社の社長に引き抜かれたスカーリーは、最初は、広告すれば売れるはずと単純に考えていた。しかし、エコノミスト誌で述べているように、技術開発への投資を忘れていたので、広告だけでなく、技術投資をするようになった。これでもまだ忘れていることがあり、それは顧客と競合で、このことに関し、ハーバード・ビジネス・レビューがケース・スタディで、パソコン利用者に、購買要因をアンケート調査した結果があったので、それを利用してモデルを作った。シミュレーションから、マックはIBMコンパチとは違った市場を狙う方がいいという結論になった。ちなみに、この時の因果関係図を、リンゴの形にして示したら、Morecraft先生から大受けだった。

3. SDとファシリティ・マネジメント

 次にファシリティマネジメントの分野での応用を考えた。ファシリティ・マネジメントは建物の取得や取得後の修理も含めた管理の分野である。

 NTTデータはソフト開発がビジネスなので、プロジェクトチームが発足すると、ファシリティ・マネジメント事業部に連絡して、なるべく顧客に近い空きビルを探してもらい、そこで仕事をする。プロジェクトが終わると借りていたスペースを返すといったことをやっている。この関係で、人が増えたり減ったりすることになる。プロジェクトが発足すると人が増えるので、作業スペースが減り、プロジェクトが終りに近づくと、人がだんだん減ってきて、作業スペースが増える。

 ここで、プロジェクトチームが発足し、ファシリティ・マネジメント事業部に連絡してオフィスを借りる手配をしてもらっても、3ケ月程度の遅延が発生するが、これを2ケ月及び1ケ月に縮めたらどうなるか、作業面積基準があり、NTTデータでは1人当たり9平米を基準にしているが、この作業面積を変えたら、作業者の不満と生産性の関係で利益にどう影響を与えるか、BPRを取り入れ、プロジェクトがいつ頃発生するか経営計画的に予め分かっているはずなので、計画的にオフィスを借りていたらどうなるかをシミュレ−ションして、最後はゲーム感覚で学べるようにした。

 この結果についてはIFMA: International Facility Management Associationで発表した。

4. 品質管理(TQM)SD

 もともとはTQMをやっていたので、そろそろSDで何かできないか検討してみた。この結果をまとめて、今年度のSD国際大会で発表する予定でいる。

 ここでは、コンピュータシステムの開発プロジェクトのバグの問題を取り上げた。システムが開発されると、その中には潜在的なバグがあり、使われる期間が長くなったり、使う人間の数が多くなることで、バグが顕在化する。これを必死になってつぶしていく。また、システムは、時間経過と共に機能追加や機能修正が必要になってくる。そうすると、今まで正常だった部分に機能追加されることでバグになったり、このことが、今まで眠っていたバグを健在化させることになる。もともと優秀な人材で開発されたシステムであれば、品質が高く、バグ発生件数が少なくなるが、優秀な人材は費用も高くつくので、修正予算や機能追加予算が限られてくると、優秀でない人材を雇うしかなくなる。これがバグを多発させる原因となる。こういった問題をシミュレーションしてみた。バグが発生する前に予防保守に10%の予算を使うのが有効という結果になった。

 理科大の統計の先生と品質管理での回帰グラフについて研究している。どのような回帰式が適切なのかを見てもらっているが、回帰させ、それを延長していって予測するというやり方では、人に説明することが難しい。モデルでシミュレーションして、同じような結果を示すことができれば、こういった因果関係でこうなるということを示すことができ、説明しやすい。この点で、SDは有効である。

 いろんな分野でSDが有効であるということを証明したいというのが私の希望である。年に1つづつ、応用分野を広げて研究していきたいと考えている。
 

(会員消息)